昔の嫌な思い出にふと心を揺さぶられるのは、なぜ?

はんなり堂薬局薬剤師コラム|昔の嫌な思い出・気分の落ち込み

昔の嫌な思い出が、ふとよみがえるのはなぜ?
引き戻されそうな時は「今ここ」へ|心理学と東洋医学から見る、記憶との付き合い方

「昔の嫌な思い出がふとよみがえってきて、とても不安になる」

「親からあんなことを言われた、こんなことも言われた。その時の声が、頭の中でくり返される」

思い出そうとしていないのに、昔の記憶が浮かぶ。それは誰にでもある自然なことで、病気ではありません。

50歳をすぎると、今まで経験してきたことが、いい意味でも悪い意味でもココロとカラダに刻まれて、「今のあなた」を作っています。でもその中には、もう持ち歩かなくてもいい「思い出」もあるかもしれません。このコラムでは、記憶がよみがえるしくみと、引き戻されそうな時の付き合い方を、心理学と東洋医学の両方からお伝えします。

この記事のポイント
  • ふと浮かぶ記憶は、毎日の暮らしの中で誰にでも起きています。
  • 疲れて気分が沈むと、つらい記憶のほうが浮かびやすくなります。あなたのせいではありません。
  • 朝・家事の途中・ひと休み・夜。暮らしの中で五感を「今ここ」に向けることが、ぐるぐるから抜け出す助けになります。

思い出そうとしていないのに、浮かんでくるのはなぜ?

心理学では、思い出そうとしていないのにふと浮かぶ記憶を「不随意記憶」と呼びます。ある香り、季節の空気、誰かの口ぐせ。そんな小さなきっかけで、記憶は自然に呼び起こされます。研究では、こうした記憶は特別なことではなく、日常的に誰にでも起きていることがわかっています(Berntsen、2010年)。

疲れていると、つらい記憶のほうが浮かびやすい

もうひとつ知っておいてほしいのが「気分一致効果」です。気分が沈んでいるときは、そのときの気分に合った、つらい記憶のほうを思い出しやすくなる。多くの研究をまとめた分析でも、この傾向が確かめられています(Mattら、1992年)。

つまり、嫌な思い出ばかり浮かぶのは、あなたの性格のせいではなく、今の疲れや気分のせいでもあるのです。閉経をはさむ時期は、ホルモンのゆらぎで気分が落ち込みやすくなることも報告されています(Freemanら、2006年)。

疲れて気分が沈むと、つらい記憶が浮かび、なんであの時と反すうして、さらに気分が沈むという循環と、五感で今ここに戻ることでそこから抜け出す図 疲れて気分が沈む 更年期のゆらぎも重なる つらい記憶が浮かぶ 気分一致効果 「なんであの時…」 頭の中でくり返す ぐるぐるの循環 五感を「今ここ」へ向けて、ぬける 温かいお茶の香り・窓の外の景色・足の裏の感触
図1 気分とつらい記憶の循環と、そこから抜け出す道(研究をもとにしたイメージ)。

「思い出すこと」そのものは、悪者ではない

年齢を重ねる中で、これまでの人生をふり返るのは、自然な心のはたらきだと考えられています。精神科医のバトラーは、人生をふり返る営みを「ライフレビュー」と名づけ、それが自分の人生を受け止め直す助けになりうると述べました(Butler、1963年)。

大切なのは、思い出したあとの心の向きです。心理学では、同じ「考える」でも、2つの向きがあると考えられています(Treynorら、2003年)。

反すう(ぐるぐる)ふり返り(内省)
心の中の言葉「なんであの時」「どうせ私は」「あの時の私は、何がつらかったんだろう」
向いている先過去にとどまり、自分を責める過去から学んで、今とこれからへ
その後の気分落ち込みが長引きやすい気持ちが整理されやすい

同じ考えを何度もくり返す「反すう」は、気分の落ち込みを長引かせやすいことが報告されています(Nolen-Hoeksema、2000年)。

東洋医学の視点:思い悩みは「脾(ひ)」の感情

東洋医学では、感情と五臓はつながっていると考えます。『黄帝内経素問』では、思い悩む感情「思(し)」は脾と結びつき、「思えば則ち気結ぼる(思則気結)」、つまり考えすぎると気のめぐりが固まってしまう、と書かれています。脾は胃腸のはたらきを担うので、思い悩む日が続くと、食欲が落ちる、胃が重いといったサインにつながると考えます。

また、心(しん)は「神(しん)」、つまり心のはたらきをおさめ、それを支えるのが血(けつ)とされます。50代は血が不足しやすい時期。血が足りないと、心が落ち着きにくく、眠りが浅くなったり、不安になりやすくなったりすると考えます。

思い出に引き戻されやすいときは、心の問題だけでなく、カラダが疲れているサインでもあるのです。

あなたが生きているのは、過去ではなく、今。そして未来。

昔に引き戻されてしんどい時は、頭の中から、今ここにあるものへ注意を移してみましょう。マインドフルネスの研究をまとめた分析では、「今この瞬間」に注意を向ける力が高まることが、反すうを減らし、気分を楽にすることにつながると報告されています(Guら、2015年)。

特別な時間をつくらなくても大丈夫。毎日の暮らしの中に、「今」へ戻るきっかけはたくさんあります。

もし、これをやっていたら今すぐやめて!

  • 嫌な記憶を、無理やり消そうとする「考えないようにしよう」とすると、かえってその考えが浮かびやすくなることが実験で示されています(Wegnerら、1987年)。
  • 「なんであの時…」と、頭の中で何度も問い直す答えの出ない問いは、ぐるぐるを強めてしまいます。

暮らしの中でできる「今への戻り方」

  • 朝 起きたら、裸足で床や畳を感じるひんやり、すべすべ、ざらざら。一日の始まりに、足の裏から「今」に降りてきます。
  • 朝 窓を開けて、外の景色と空気を感じる空の色、木の葉の揺れ、ひんやりした空気のにおい。目に入るもの、肌に触れるものを、心の中で言葉にしてみます。
  • 家事の途中 手もとの感覚に気持ちを向ける洗い物のお湯の温かさ、野菜を切るトントンという音、洗濯物の手ざわり。いつもの家事が、「今」に戻る時間になります。
  • ひと休み 香りのよい温かいお茶を、ゆっくり味わう湯気、香り、手のひらに伝わる温かさ、ひと口目の味。ひとつずつ感じてみてください。
  • ぐるぐるし始めたら 少しだけ体を動かす気分が沈んでいるとき、考え続けるより、ほかのことに少し気持ちを向けたほうが落ち込みが軽くなったという実験があります(Nolen-Hoeksema & Morrow、1993年)。5分の散歩や、ベランダの植物に水をやるだけでも大丈夫です。
  • 夜 今日の「小さな良かったこと」を思い出すお茶がおいしかった、夕焼けがきれいだった。寝る前に、その日の良かったことを書き留める習慣を続けると、幸福感が高まったという研究もあります(Seligmanら、2005年)。思い出す先を、過去から「今日」に変えてみましょう。
見る、聞く、触れる、香る、味わうの五感を使って、今ここに戻る図 見る聞く触れる香る味わう 窓の外包丁の音足の裏お茶の湯気ひと口目 どれかひとつで大丈夫。五感が「今ここ」への入り口
図2 五感で「今ここ」に戻るヒント。

浮かんだときの、心の中のひとこと

記憶がよみがえったら、追い払わなくていいのです。「あ、思い出しているな」と気づいて、「それは昔のこと。今の私は、ここにいる」と心の中でつぶやいてから、目の前のお茶や景色に戻ってきます。

何度引き戻されても大丈夫。戻ってくるたびに、持ち歩かなくてもいい思い出は、少しずつ軽くなっていきます。

漢方の視点:整えるのは、ご自身の力

思い出に引き戻されやすい根っこには、思い悩みによる気の滞りや、胃腸の疲れ、50代で減りやすい血の不足など、一人ひとり違う背景があります。

整えていくのは、もともと備わっているあなた自身の力。漢方薬は、その力をグッと引き上げる後押し役です。漢方薬も医薬品ですので、治療中の病気がある方や、お薬を飲んでいる方は、必ず事前にご相談ください。

よくある質問

秋になると、昔のことを思い出すのはなぜ?

季節の香りや空気は、記憶を呼び起こすきっかけになりやすいものです。また、さみしさを感じるときほど、なつかしい思い出が浮かびやすいことも研究で報告されています。なつかしい思い出には、人とのつながりを感じさせ、気持ちを支えるはたらきもあると考えられています(Wildschutら、2006年/Zhouら、2008年)。

嫌な記憶を、忘れる方法はありますか?

無理に消そうとすると、かえって浮かびやすくなることがわかっています。忘れようとするより、浮かんだことに気づいて、五感を使って「今ここ」に戻ってくる練習のほうが、記憶との距離をとりやすくなります。

昔のことを思い出せるのは、人間だけ?

カケスという鳥が「いつ・どこに・何を」隠したかを覚えていたという研究があり、動物にも過去の出来事を覚える力はあると考えられています(Clayton & Dickinson、1998年)。ただ、過去を言葉でふり返り、意味を考え直すことができるのは、人間ならではの力といえます。

最後に、相談という手があります。

昔の思い出は、あなたが一生懸命生きてきた証です。でも、全部を持ち歩かなくても大丈夫。浮かんだら、温かいお茶をひと口。あなたが生きているのは、過去ではなく、今。そして未来です。

ひとりで抱えているとつらいときは、誰かに話してみることも、「今」に戻るひとつの方法です。漢方に詳しい薬剤師や医師に相談すると、体質から根っこを見て、ご自身に合った整え方を一緒に考えてもらえます。

参考にした文献・資料(タップで開く)
  1. Berntsen D. The unbidden past: involuntary autobiographical memories as a basic mode of remembering. Curr Dir Psychol Sci. 2010;19:138-142.
  2. Matt GE, Vázquez C, Campbell WK. Mood-congruent recall of affectively toned stimuli: a meta-analytic review. Clin Psychol Rev. 1992;12:227-255.
  3. Freeman EW, et al. Associations of hormones and menopausal status with depressed mood in women with no history of depression. Arch Gen Psychiatry. 2006;63:375-382.
  4. Butler RN. The life review: an interpretation of reminiscence in the aged. Psychiatry. 1963;26:65-76.
  5. Treynor W, Gonzalez R, Nolen-Hoeksema S. Rumination reconsidered: a psychometric analysis. Cognit Ther Res. 2003;27:247-259.
  6. Nolen-Hoeksema S. The role of rumination in depressive disorders and mixed anxiety/depressive symptoms. J Abnorm Psychol. 2000;109:504-511.
  7. Nolen-Hoeksema S, Morrow J. Effects of rumination and distraction on naturally occurring depressed mood. Cogn Emot. 1993;7:561-570.
  8. Wegner DM, Schneider DJ, Carter SR, White TL. Paradoxical effects of thought suppression. J Pers Soc Psychol. 1987;53:5-13.
  9. Gu J, Strauss C, Bond R, Cavanagh K. How do mindfulness-based cognitive therapy and mindfulness-based stress reduction improve mental health and wellbeing? A systematic review and meta-analysis of mediation studies. Clin Psychol Rev. 2015;37:1-12.
  10. Wildschut T, Sedikides C, Arndt J, Routledge C. Nostalgia: content, triggers, functions. J Pers Soc Psychol. 2006;91:975-993.
  11. Zhou X, Sedikides C, Wildschut T, Gao DG. Counteracting loneliness: on the restorative function of nostalgia. Psychol Sci. 2008;19:1023-1029.
  12. Clayton NS, Dickinson A. Episodic-like memory during cache recovery by scrub jays. Nature. 1998;395:272-274.
  13. Seligman MEP, Steen TA, Park N, Peterson C. Positive psychology progress: empirical validation of interventions. Am Psychol. 2005;60:410-421.
  14. 『黄帝内経素問』陰陽応象大論(脾は志に在りては思と為す)、挙痛論(思則気結)、宣明五気篇(心蔵神)
  15. 日本東洋医学会 編『専門医のための漢方医学テキスト』南江堂

この記事は一般的な情報をお伝えするもので、診断や治療に代わるものではありません。症状や体質には個人差があります。気になる症状があるときは、医師や薬剤師にご相談ください。

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