40代になると、30代では感じなかった不調を感じる方も多いでしょう。
これは、40歳になると女性ホルモンの一つ、『エストロゲン』の分泌量が急激に低下することが
原因の一つだと言われています。
一般的に、『更年期』というと、閉経前後5年間(トータル10年間)を指しますが、
広い意味では、40歳から60歳前半、老年期に入るまでを『更年期』として
エストロゲンの減少に伴う、体の変化を感じやすい時期になります。

図:女性の一生とエストロゲン量の変化
女性の一生で分泌されるエストロゲンの量は?
女性の一生の間で分泌されるエストロゲン(エストラジオールとして)の総量は、
わずか小さじスプーン1杯ほど。
1日の分泌量は、年代によって違い
閉経前
- エストラジオール(E2):約 100~400μg/日
- 排卵期には特に高くなり、月経周期によって変動します。
閉経期(50代前半ごろ)
- エストラジオール(E2):10~50μg/日
- 卵巣機能が低下し、分泌量が急激に減少します。
閉経後(閉経から数年経過後)
閉経後には、卵巣からではなく、副腎由来のアンドロゲン(アンドロステンジオン)が
脂肪組織でエストロン(E1)に変換されるのが主な供給源となります。
エストロゲン分泌の仕組み

エストロゲンの分泌は、「フィードバック機構」と呼ばれる仕組みでコントロールされています。
これは、体の状態に応じてホルモンの分泌量を調整するシステムです。
1. フィードバックの種類
① ネガティブフィードバック(エストロゲン濃度上昇時)
普段、エストロゲンの量が増えると、視床下部と脳下垂体がそれを感知して
「もうあまり作らなくていいよ」と指令を出します。
👉 エストロゲンの分泌が抑えられる。
② ポジティブフィードバック(エストロゲン濃度低下時)
エストロゲンの濃度が減少すると、脳の視床下部や下垂体を刺激
し、卵巣からのホルモンの分泌を促します。
👉エストロゲンの分泌が促される。
この2つの仕組みのおかげで、ホルモンバランスが調整され、生理周期が維持されます。
エストロゲンの種類
エストロゲン(卵胞ホルモン)には次の3種類があります。
① エストロン(E1:Estrone)
🔹 特徴:
- 閉経後の女性で主に働くエストロゲン。
- 脂肪組織(皮下脂肪など)で作られる。
- 他のエストロゲンよりも弱い作用を持つ。
② エストラジオール(E2:Estradiol)(最も重要!)
🔹 特徴:
- 最も強力なエストロゲンで、妊娠可能な年齢の女性で多く分泌される。
- 卵巣で作られ、生理周期・妊娠・骨の健康に重要な役割を果たす。
- 体の発育や美肌にも影響を与える。
③ エストリオール(E3:Estriol)
🔹 特徴:
他のエストロゲンよりも作用は弱いが、妊娠中のホルモンバランスに欠かせない

エストロゲン(卵胞ホルモン)の働きは?
エストロゲンの主な働き
🟨 女性らしい体を作る
→ 思春期になると、胸がふくらみ、丸みのある体つきになるのはエストロゲンの働きです。
🟨 生理の調整
→ 子宮の内膜を厚くし、妊娠しやすい環境を作ります。生理が規則的にくるのも、このホルモンのおかげです。
🟨骨を強くする
→ 骨の健康を守り、骨粗しょう症を防ぎます。閉経後に骨が弱くなりやすいのは、エストロゲンが減るからです。
実際に、骨が脆くなり骨折のリスクが高まるのは老年期に入ってからですが、10年くらい前から
骨量は少しずつ減っていきます。
🟨 美肌効果
→ コラーゲンの生成を助け、肌にハリや潤いを与えます。
🟨自律神経の安定
→ 気分の浮き沈みを抑え、イライラやストレスを和らげます。
🟨 血管を守る
→ コレステロールのバランスを整え、動脈硬化を防ぎます。
🟨毛髪の発育に関係
→ 美しいしなやかな髪の毛の発育にも不可欠です。40代になると髪の毛が細くなったりパサつく
のも、エストロゲン分泌量の低下と関係しています。

さらに、更年期前後に、『尿漏れ』のトラブルが起こるのも、実はエストロゲンの分泌量減少と関係しています。
エストロゲンの減少と粘膜の萎縮、尿漏れの関係
エストロゲンは女性の体を健康に保つために重要なホルモンですが、閉経が近づくと分泌量が減少します。
すると、粘膜や筋肉が弱くなり、萎縮することでさまざまなトラブルが起こります。
その代表的な症状が、尿もれや膣炎などの泌尿器系のトラブルです。
1. 粘膜の萎縮(萎縮性膣炎)
✅ エストロゲンが減少すると、膣や尿道の粘膜が薄くなり、潤いが減る
✅ かゆみ・乾燥・痛みが起こりやすくなる
✅ 性交痛や膣炎のリスクが高まる
✅ 膀胱や尿道の粘膜も弱くなるため、尿路感染症(膀胱炎)にもなりやすい
2. 尿漏れ(尿失禁)
✅ エストロゲンは骨盤の筋肉や膀胱・尿道を支える働きをしている
✅ 減少すると、膀胱や尿道の筋肉が弱くなる
✅ 腹圧性尿失禁(くしゃみ・咳・笑ったときの尿漏れ)が起こりやすくなる
✅ 切迫性尿失禁(急に尿意を感じて我慢できなくなる)も増える
男性にも女性ホルモンはあるの?
卵巣のない男性でも、『エストロゲン』は微量存在します。
男性の体内でエストロゲンが作られる主な経路は以下の2つです。
- アンドロゲン(テストステロンなど)→ エストロゲンへの変換
- 男性の体内では、アロマターゼという酵素がアンドロゲン(特にテストステロン)をエストラジオール(E2)に変換します。
(この変換は主に脂肪組織や肝臓、副腎で行われます)
- 男性の体内では、アロマターゼという酵素がアンドロゲン(特にテストステロン)をエストラジオール(E2)に変換します。
- 副腎から直接分泌
- 副腎では少量ですが、エストロゲン(特にエストロン:E1)が作られます。
男性のエストロゲンの役割
エストロゲンは男性の体でも重要な働きをしています。
✅ 骨の健康を維持(骨粗しょう症を防ぐ)
✅ 精子の成熟を助ける(生殖機能の維持)
✅ 脳の機能をサポート(記憶力や気分の安定)
✅ 脂肪の代謝に関与
ただし、エストロゲンが過剰になると、男性でも女性化乳房(胸がふくらむ)や体脂肪の増加などの影響が出ることがあります。
まとめ
🔹 男性のエストロゲンの多くは、アンドロゲン(テストステロン)がアロマターゼ酵素によって変換されてできる。
🔹 副腎でも少量のエストロゲンが作られる。
🔹 男性にとっても、骨や脳、精子の健康に必要なホルモンである。
更年期症状とは?
更年期障害は、女性が**閉経を迎える前後(45~55歳頃)にホルモンバランスが大きく変化する
ことで起こるさまざまな不調のことを指します。
🔹 なぜ起こるの
女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少すると、体のバランスが乱れ、自律神経の働きにも影響を及ぼします。
具体的には、上記のエストロゲン分泌のフィードバックに乱れが起こるために、
自律神経をコントロールする『視床下部』やホルモン分泌をコントロールする『脳下垂体』
が過剰に刺激され、さまざまな症状が現れます。
更年期に起こるフィードバックの乱れ
1. 負のフィードバックの異常
通常、エストロゲンが増えると、脳が「もう分泌を抑えていいよ」と指令を出します(負のフィードバック)。
しかし、更年期では卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌が減少します。
👉 脳(視床下部・下垂体)はエストロゲンが足りないと勘違いし、FSHやLHを過剰に分泌する。
👉でも卵巣は十分に反応できず、エストロゲンの増加が追いつかない。
🔹 結果: ホルモンのバランスが乱れ、月経不順やほてり(ホットフラッシュ)、動悸、気分
の浮き沈みなどの更年期症状が現れる。
2. 正のフィードバックの消失
通常、排卵前にはエストロゲンが一定量を超えると、LHの分泌が急増し、排卵が起こります(正のフィードバック)。
しかし、更年期ではエストロゲンの分泌量が不安定になるため、排卵を引き起こすほどのLHサージが起こらなくなります。
👉 結果: 排卵が起こらず、月経周期が不規則になり、最終的に閉経する。
まとめ
- 更年期になるとエストロゲンが減少し、フィードバックの調節がうまくいかなくなる。
- 脳がエストロゲン不足を補おうとしてFSHやLHを過剰に分泌するが、卵巣が反応しない。
- 正のフィードバックが機能しなくなり、排卵がなくなることで閉経に至る。
このフィードバックの乱れが、更年期の症状の原因になります。
更年期障害の症状
更年期の症状は、実に300を超えるとされています。
症状が重く、生活に支障があるほどの症状を『更年期障害』として
治療の対象となります
更年期の症状は主に次の3つに分類されます。
① 血管運動神経系の症状(自律神経の乱れによるもの)
💦 血流や体温調節に関係する症状
- ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・発汗)
- 異常な発汗(特に寝汗)
- 冷え(手足の冷え、全身の冷え)
- 動悸・息切れ
- めまい・ふらつき
- 血圧の変動(高血圧や低血圧)
② 精神神経系の症状(精神的・神経的な変化)
😞 気持ちや感情、脳の働きに影響する症状
- イライラ・怒りっぽくなる
- 不安感・気分の落ち込み(うつ状態)
- 不眠・寝つきが悪い、途中で目が覚める
- 集中力の低下・物忘れ
- 情緒不安定(急に泣きたくなる)
- やる気が出ない・無気力感
③ 運動神経系の症状(筋肉や関節の変化)
💪 体の動きや痛みに関係する症状
- 肩こり・腰痛・関節痛
- 筋肉のこわばりや痛み
- 手足のしびれ・違和感
- 疲れやすく、倦怠感が続く
- 筋力の低下や体力の衰えを感じる
更年期障害の治療を詳しくみてみよう!
更年期障害の治療には、大きく分けて
🏥 ホルモン補充療法(HRT)
🌿 漢方薬
🌿 生活習慣の改善
💊 サプリメント
📕 心理療法などがあります
それぞれの方法を詳しく説明します。
1. ホルモン補充療法(HRT)
エストロゲンやプロゲステロンを補う治療法で、エストロゲン分泌低下に伴う更年期の症状を
直接改善する効果があります。
🔹 効果: ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、イライラ、不眠、骨粗しょう症予防など
🔹 方法:
💊 経口薬(飲み薬)
💊 貼り薬・ジェル(皮膚から吸収)
🔹 注意点:
- 乳がんや血栓症のリスクがあるため、医師と相談しながら使用
- 子宮がある人はプロゲステロンも併用(子宮内膜増殖症のリスクを防ぐ)
ホルモン補充療法は、主に婦人科での治療対象となります。
乳がんや血栓症がある方、乳がんの手術後に術後のホルモン療法を実施されている
方は治療できません。
2. 漢方薬(自然な調整)
ホルモンバランスを整え、自律神経の乱れを整えて症状を軽減します。
より、自然な療法といえるでしょう。
🔹 代表的な漢方薬:
🌿 加味逍遙散(かみしょうようさん)
🌿 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
🌿当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
🌿芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
🌿婦人宝(ふじんほう)
漢方薬は、体の内側のバランスを整え症状を軽減するのがとても得意です。
ただし、どれでもいいわけではなくお悩みの症状や体質に合わせて選ぶ必要があるため、
専門家に相談の上服用しましょう。
3. 生活習慣の改善
日常生活を整えることで、更年期症状を和らげることができます。
🔹 ポイント:
👟 適度な運動(ウォーキング、ヨガ) → 血流改善、自律神経を整える
🍚 バランスの良い食事 → 大豆(イソフラボン)、カルシウム、ビタミンDを摂る
🌟 ストレス管理 → 趣味、リラックス法を取り入れる
🌙 良質な睡眠 → 規則正しい生活で睡眠の質を上げる
4. サプリメント
食事で足りない栄養を補う方法。ホルモンバランスを整えやすくする。
🔹 代表的な成分:
💊 大豆イソフラボン → エストロゲンに似た働き(エクオールを体内で作ることができる方)
💊 エクオール → 大豆イソフラボンを体内で変換する成分
💊 カルシウム・ビタミンD → 骨粗しょう症予防
💊 マグネシウム・GABA → イライラや不安を軽減
5. 心理療法・カウンセリング
ストレスが強い場合、カウンセリングやリラクゼーション法が役立つこともあります。
🔹 例:
📕 マインドフルネス瞑想 → ストレス軽減、心の安定
📕 カウンセリング → 不安やうつ症状の相談
こちらも、専門家にご相談の上実施しましょう。
まとめ
🏥 ホルモン補充療法(HRT) → 効果が高いがリスクもある
🌿 漢方薬 → 体質に合わせた調整が可能
✨ 生活習慣の改善 → 根本的な体質改善につながる
💊 サプリメント → 食事で補えない栄養をプラス
📕 心理療法 → ストレスや不安の対策
***はんなり堂薬局では、カウンセリングを行った上で症状や体質に合った漢方薬をご紹介しております。
男性にも更年期はあるの?
男性の更年期(LOH症候群)は何歳から?
男性の更年期症状は40代後半~50代以降に多く見られますが、個人差が大きいです。
✅ 一般的には → 50歳前後から
✅ 早い人では → 40代前半から
✅ 遅い人では → 60代以降に症状が出ることも
男性の更年期はなぜ起こる?
男性の更年期は、エストロゲン減少の影響というよりは、テストステロン(男性ホルモン)の減少によって
起こります。
テストステロンは加齢やストレス、生活習慣によって徐々に減るため、症状がゆっくり進むのが特徴です。
男性更年期(LOH症候群)の主な症状
① 身体的な症状
- 疲れやすい、だるい
- 筋力の低下、体が重い
- ほてり・発汗(ホットフラッシュ)
- 睡眠障害(眠れない、途中で起きる)
② 精神的な症状
- イライラしやすい、怒りっぽい
- 気分の落ち込み、うつ症状
- 集中力・記憶力の低下
③ 性機能の変化
- 性欲の低下
- 勃起不全(ED)
対策・治療方法
👟 生活習慣の改善(運動・バランスの良い食事・十分な睡眠)
🧘♀️ ストレス管理(リラックスする時間を作る)
🏥 ホルモン補充療法(HRT)(テストステロン補充:医師の診断が必要)
💊 サプリメント(亜鉛、マカ、DHEAなど)
まとめ
- 男性の更年期は40代後半~50代に起こりやすいが、個人差が大きい
- テストステロンの減少が原因で、疲れ・イライラ・性欲低下などの症状が出る
- 生活習慣の改善やホルモン補充療法で対策できる