冬の朝、やる気が出ないのはなぜ?
「光」を味方にして、カラダと心のスイッチを入れる
「朝ごはん、作らなきゃ。でも、やる気がしない…」
冬は、起きる6時ごろになっても、まだ真っ暗。
まぶたが半分とじたまま「起きなくちゃ…」と思っても、
カラダがなかなか起きてくれない。
朝起きたとき、気持ちもカラダも乗ってこない日、ありますよね。
「私、なまけているのかな」と思ってしまうかもしれません。
でも、それはあなたのせいだけではありません。
冬の朝は、カラダを起こす「光」が足りない季節なのです。
このコラムでは、光とカラダ、そして気持ちのつながりを、西洋医学と東洋医学の両方からひもときます。
- カラダの時計を朝に合わせるのは、目から入る光です。
- 日が短い季節は、カラダだけでなく気持ちも沈みやすくなります。
- 暗いうちは部屋の電気を全部つける。明るくなったら窓のそばへ。
- 東洋医学では、冬は「しまう季節」。日の光を待って起きるのが養生とされます。
冬の朝、カラダが起きてくれないのはなぜ?
わたしたちのカラダには、朝と夜を知らせる「時計」があります。
眠くなる時間、目が覚める時間、体温やホルモンのリズムは、この時計が決めています。
じつはこの時計、ぴったり24時間ではなく、少しだけ長めにできています。
だから、毎朝なにかの合図で「今日の朝はここですよ」と合わせ直す必要があるのです。
【参考】カラダの時計の1日は、平均でおよそ24時間10分ほどと報告されています(Czeislerら、1999年)。
その、いちばん強い合図が朝の光。
ところが冬は日の出がおそく、関西では12月から1月の日の出は7時ごろ。
起きる時間にはまだ暗く、合図が届きにくいのです。
【参考】国立天文台 暦計算室の日の出・日の入りの計算(京都)
光は「目」から入って、カラダを起こす
朝日を浴びるとき、大切なのは目に光が入ることです。
目の奥の網膜には、ものを見るための細胞とは別に、明るさを感じて時計に伝える細胞があります。
ここで受けとった光の合図が、脳の中にある時計に届きます。
【参考】網膜にある、メラノプシンという色素をもつ細胞が、光をカラダの時計に伝えていることがわかっています(Bersonら、Hattarら、2002年)。
合図が届くと、夜のあいだ出ていた眠りをさそうホルモン(メラトニン)が止まり、カラダは「朝だ」と動き出します。
体温が上がりはじめ、頭も少しずつ目覚めていきます。
ですから、おでこや肌に光を当てるより、窓の外をながめるほうが近道です。
ただし、まぶしい太陽を、じっと見るのはやめてくださいね。目をいためてしまいます。
50代は、光が少し届きにくくなる年代
年齢とともに、目の中のレンズ(水晶体)は少しずつ黄色みをおび、光を通しにくくなります。
とくに、カラダの時計に効きやすい青っぽい光が届きにくくなるといわれています。
若いころと同じ過ごし方でも、朝のスイッチが入りにくいと感じるのは、そのせいもあるのです。
50代からは、いつもより少し明るめを意識するのがおすすめです。
【参考】年齢とともに、水晶体を通ってカラダの時計に届く光が減ることが報告されています(Turner・Mainster、2008年)。
日が短い季節は、気持ちも沈みがち
冬になると、なんとなく気持ちまで沈む。
何をするのもおっくうで、朝はとくにつらい。
じつは、日が短くなる季節に、気分が落ちこむ、眠くてたまらない、甘いものが欲しくなるといった変化があらわれる人は少なくありません。
そして、春になって日が長くなると、自然と軽くなっていくことが多いのです。
【参考】日照の短い季節にくり返す気分の落ちこみについては、1984年にRosenthalらが初めてまとめて報告しました。
こうした冬の落ちこみには、朝の明るい光が気持ちを支える助けになることが、多くの研究で確かめられています。
病院でも、専用の明るいライトを使う方法がとられることがあります。
【参考】複数の研究をまとめた解析で、明るい光をあびる方法は、季節による気分の落ちこみをやわらげる効果がみられました(Goldenら、2005年)。
「やる気が出ないのは、私がだらしないから」
そんなふうに、自分を責めなくていいんですよ。
光が足りない季節のせいも、きっとあります。
部屋の照明でもいいの?曇りの日は?
よくいただく質問です。答えは、「照明も役に立つ。でも、外の光のパワーの方が勝ってる!」です。
部屋の照明くらいの明るさでも、眠りのホルモンは止まり、カラダの時計に合図は届きます。
ただ、明るさをくらべてみると、外の光とは大きな差があります。
【参考】ふつうの部屋の明かりくらい(100ルクス前後)でも、メラトニンを抑え、時計を動かすはたらきの半分ほどがみられました(Zeitzerら、2000年)。
| どこで? | 明るさのめやす |
|---|---|
| 家の中の照明 | 数百ルクスほど |
| 曇りや雨の日の外 | 数千〜1万ルクスほど |
| 晴れた日の外 | 数万〜10万ルクスほど |
| 病院などで使う専用ライト | 1万ルクス(30分ほど) |
明るさは時間や場所で大きく変わるため、おおよその目安です。専用ライトの条件は、Lamら(2006年)などの研究によります。
曇りの日の外でも、部屋の照明の何倍も明るいのです。
だから、暗いうちは照明、明るくなったら外の光。この順番がおすすめです。
もし、これをやっていたら今すぐやめて!
- 暗い部屋のまま、布団の中でスマホをながめる小さな画面の光だけでは、朝の合図には足りません。まずはカーテンと電気を。
- 夜おそくまで、明るい画面を見つづける夜の明るい光は、カラダの時計を夜ふかしの方向へずらし、翌朝をつらくします。
- 休みの日に、お昼近くまで寝てしまう時計のリズムがずれて、週のはじめの朝がさらに重くなりがちです。
【参考】寝る前に明るい画面で読書をした人は、紙の本の人より眠りのホルモンが出るのがおそく、翌朝の目覚めもすっきりしにくい結果でした(Changら、2015年)。
かわりに、これを始めましょう
- 暗いうちは、部屋の電気を全部つける!いつもの照明でも、カラダの時計にちゃんと届きます。
- 明るくなってきたら、窓のそばで朝ごはんや身じたくをわざわざ時間をとらなくても、朝の動きの中で光をあびられます。
- 出られる日は、ベランダや玄関の外で、ゆっくり深く息を吸って曇りの日でも、外の光のパワーは部屋とはけた違いです。
- 夜は、照明を少し落としてゆったりと朝は明るく、夜は暗く。このメリハリが、時計を整えます。
いきなり「スッキリ!」でなくてもだいじょうぶ。
少しずつカラダが目覚めていくのを感じられたら、それで十分です。
東洋医学の視点:冬は「しまう季節」
東洋医学では、日の光は「陽(よう)」のエネルギー。
カラダをあたため、気持ちを外へ向かわせる力と考えます。
冬は一年でいちばん陽が少なく、自然のものがじっと力をたくわえる「しまう季節」。
人のカラダも、気持ちも、内にこもりやすくなるのは自然なことなのです。
東洋医学の古典『黄帝内経素問』には、冬の過ごし方として、「早く寝て、おそく起きる。かならず日の光を待って起きる」と書かれています。
【参考】『黄帝内経素問』四気調神大論「冬三月、此謂閉蔵…早臥晩起、必待日光」
朝の光を合図に一日をはじめるのは、昔からの知恵でもあるんですね。
冬の朝は無理に早起きをがんばるより、夜を少し早めにして、光といっしょに起きる。
そんな過ごし方が、カラダにも気持ちにもやさしいと考えます。
こんなときは、まず医療機関へ(タップで開く)
- 朝のおっくうさや気分の落ちこみが、ほとんど毎日、2週間をこえて続く
- 好きだったことが楽しめない、眠りや食欲が大きく変わった
- 家事や仕事が手につかず、暮らしにさしつかえている
- 「消えてしまいたい」と思うことがある
治療が必要な状態のこともあります。ひとりで抱えず、心療内科や精神科、かかりつけ医に相談してください。
漢方の視点:整えるのは、ご自身の力
冬の朝のつらさの根っこには、冷えでカラダの陽が足りない、胃腸が疲れて気がつくれない、気のめぐりが滞っているなど、一人ひとり違う背景があります。
整えていくのは、もともと備わっているあなた自身の力。漢方薬は、その力をグッと引き上げる後押し役です。
漢方薬も医薬品ですので、治療をしている病気がある方や、お薬を飲んでいる方は、必ず事前にご相談ください。
よくある質問
朝の光は、部屋の照明(蛍光灯やLED)でもいいの?
はい、役に立ちます。部屋の照明くらいの明るさでも、眠りのホルモンが止まり、カラダの時計に合図が届くことがわかっています。ただ、外の光は曇りの日でも部屋の何倍も明るいので、暗いうちは照明、明るくなったら窓のそばへ、がおすすめです。
曇りや雨の日でも、外の光に意味はありますか?
あります。曇りや雨の日の外でも、ふつうは家の中よりずっと明るいものです。窓のそばで朝ごはんを食べたり、身じたくをしたりするだけでも、光をとり入れられます。
市販の「光のライト」を使ってもいいですか?
使う前に、医師や薬剤師に相談してください。目の病気がある方、光に敏感になるお薬を飲んでいる方、気分の浮き沈みが大きい方は、注意が必要なことがあります。気分の落ちこみが続くときは、まず医療機関で相談してみてください。
朝、何分くらい光をあびればいいですか?
決まった時間はありませんが、まずは窓のそばで5〜10分ほどからはじめてみてください。朝の動きの中で、毎日つづけられることがいちばん大切です。
最後に、相談という手があります。
冬の朝、やる気が出ないのは、あなたがなまけているからではありません。
光が足りない季節に、カラダと心がゆっくりになっているだけ。
暗いうちは電気を全部つけて、明るくなったら窓のそばへ。
それでも朝のつらさや気持ちの落ちこみが続くときは、体質から根っこを一緒に見ていくことができます。漢方に詳しい薬剤師や医師に相談すると、ご自身に合った整え方を一緒に考えてもらえます。
参考にした文献・資料(タップで開く)
- Czeisler CA, et al. Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker. Science. 1999;284:2177-2181.
- Berson DM, Dunn FA, Takao M. Phototransduction by retinal ganglion cells that set the circadian clock. Science. 2002;295:1070-1073.
- Hattar S, et al. Melanopsin-containing retinal ganglion cells: architecture, projections, and intrinsic photosensitivity. Science. 2002;295:1065-1070.
- Zeitzer JM, et al. Sensitivity of the human circadian pacemaker to nocturnal light: melatonin phase resetting and suppression. J Physiol. 2000;526:695-702.
- Khalsa SBS, et al. A phase response curve to single bright light pulses in human subjects. J Physiol. 2003;549:945-952.
- Turner PL, Mainster MA. Circadian photoreception: ageing and the eye’s important role in systemic health. Br J Ophthalmol. 2008;92:1439-1444.
- Rosenthal NE, et al. Seasonal affective disorder: a description of the syndrome and preliminary findings with light therapy. Arch Gen Psychiatry. 1984;41:72-80.
- Golden RN, et al. The efficacy of light therapy in the treatment of mood disorders: a review and meta-analysis of the evidence. Am J Psychiatry. 2005;162:656-662.
- Lam RW, et al. The Can-SAD study: a randomized controlled trial of the effectiveness of light therapy and fluoxetine in patients with winter seasonal affective disorder. Am J Psychiatry. 2006;163:805-812.
- Chang AM, et al. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl Acad Sci USA. 2015;112:1232-1237.
- 国立天文台 暦計算室「日の出入り」
- 厚生労働省「こころの耳」(うつ病の基本と受診のめやす)
- 『黄帝内経素問』四気調神大論
- 日本東洋医学会 編『専門医のための漢方医学テキスト』南江堂
この記事は一般的な情報をお伝えするもので、診断や治療に代わるものではありません。症状や体質には個人差があります。気になる症状があるときは、医師や薬剤師にご相談ください。
